新しい靴をおろした日、あるいは久しぶりに履いたパンプスで長時間歩いた日。「痛いな」と思って帰宅してみると、かかとから出血していて、大切な靴の内側が赤く染まっていた……なんて経験はありませんか?
「お気に入りの靴なのにショック」
「水洗いできない素材だからどうしよう」
「時間が経って茶色くなってしまった」
そんな絶望的な気分になっても、まだ諦めないでください。血液の汚れは、正しい手順と適切な道具を使えば、素材を傷めずにきれいに落とせる可能性が高いのです。
逆に、自己流のやり方、特に「良かれと思ってお湯で洗う」といった行動は、汚れを定着させ、取り返しのつかないシミを作ってしまう原因になります。
この記事では、靴専門店でのケア経験も踏まえ、緊急時の応急処置から、時間が経った頑固なシミの落とし方まで、素材別に徹底解説します。あなたの靴を救うためのレスキューガイドとしてお役立てください。
まず確認!靴についた血を落とす前の3つの鉄則(NG行動)
「早く落とさなきゃ!」と焦る気持ちは分かりますが、いきなり洗剤をつけてゴシゴシこするのは厳禁です。靴の素材はデリケートですし、血液汚れには特有の性質があります。まずは、失敗しないための3つの鉄則を押さえましょう。
絶対に「お湯」を使わない(水を使う理由)

それが最大のポイントです。通常の皮脂汚れや泥汚れは「お湯」の方が落ちやすいですが、血液汚れにお湯は絶対NGです。
血液に含まれるタンパク質(ヘモグロビンなど)は、熱を加えると固まる性質があります。卵を茹でると固まるのと同じ原理です。一度熱で固まってしまったタンパク質は、繊維の奥に定着し、プロでも落とすのが難しくなります。
一般的に40度以上で凝固が始まると言われています。お風呂の残り湯などは使わず、必ず「水」または「30度以下のぬるま湯」を使用してください。
こすりすぎない(素材を傷めないコツ)
靴の内側(ライニング)やインソールは、摩擦に弱い素材でできていることが多いです。特に血液が繊維の奥に入り込んでいる場合、表面をゴシゴシこすると、かえって汚れを奥へと押し込んでしまうことになります。
また、強くこすることで生地が毛羽立ったり、色落ち(白化)したりするリスクもあります。血を落とす時の基本動作は「こする」のではなく、「叩き出す」または「移し取る」ことです。
洗える靴か「素材」を確認する
靴の素材によって、アプローチは180度変わります。「水洗いできる靴」なのか「水洗いできない靴」なのかを最初に見極めましょう。
| 水洗いOK(丸洗い可) | スニーカー、キャンバスシューズ、上履き、スポーツシューズ、一部のウォッシャブルパンプス |
|---|---|
| 水洗いNG(部分ケアのみ) | 天然皮革(レザー)、合成皮革(多くのパンプス)、スエード・ヌバック(起毛素材)、ムートンブーツ |
素材がわからない場合は、靴の箱やタグを確認するか、目立たない部分に少し水をつけて染み込み具合を確認してください。

【緊急】血がついてすぐの応急処置(外出先・帰宅直後)
血がついた直後であればあるほど、汚れは簡単に落ちます。まだ血液が乾いていない状態なら、洗剤すら不要な場合がほとんどです。
外出先で気づいた時の「炭酸水・ティッシュ」対処法

外出中、トイレなどで靴脱いだ時に出血に気づいた場合、コンビニなどで手に入る「炭酸水」が非常に有効です。
炭酸ガスに含まれる二酸化炭素が、血液中のタンパク質と結びつき、汚れを浮き上がらせる効果があります。また、少し酸性に傾くため、アルカリ性の血液汚れを中和する働きも期待できます(※ただし、あくまで物理的な発泡作用の効果がメインです)。
- ティッシュやハンカチを厚めに折りたたみ、傷口の手当てをまず行います。
- 別のティッシュに炭酸水をたっぷり含ませます。
- 血がついた部分の裏側(可能なら)に乾いたティッシュをあて、表から炭酸水を含ませたティッシュでトントンと叩きます。
- 汚れが下のティッシュに移るまで繰り返します。
こすらず、炭酸のパワーで汚れを「浮かせて移す」イメージで行いましょう。
帰宅直後なら「水洗い」だけで落ちる確率大
家に帰ってすぐ、まだ血液が鮮血(赤い状態)であれば、洗剤を使わなくても水流だけで落ちることが多いです。
洗面所に靴を持っていき、シャワーの水を強めに出して、汚れた部分に裏側から(汚れた面とは逆側から)当ててください。水圧で血を弾き飛ばすイメージです。
これで落ちない場合や、少し時間が経って乾き始めている場合は、後述する洗剤を使ったケアに進みます。
【素材別】洗えない靴(革靴・パンプス・スエード)の血の落とし方
ここからは、ジャブジャブ洗えないデリケートな素材の対処法です。ビジネスシューズやパンプスなど、靴擦れが起きやすい靴の多くはここに分類されます。ピンポイントでのケアが求められます。
革靴・合皮パンプス|水で濡らした布で「叩き洗い」
一般的な革靴や合皮のパンプスの内側(かかと部分など)についた血は、以下の手順で落とします。
| 必須 | 白いタオル(汚れてもいい布)、綿棒 |
|---|---|
| 推奨 | 食器用洗剤(中性洗剤)、水を入れた小皿 |
- 洗剤液を作る
小皿に水を入れ、食器用洗剤を1滴垂らして混ぜます。濃度は薄くてOKです。 - 湿らせる
綿棒またはタオルの端に洗剤液を含ませ、血がついた部分を軽くポンポンと叩いて湿らせます。血液をふやかします。 - 汚れを移す
新しい綿棒やタオルのきれいな面で、浮いてきた血を吸い取ります。 - 拭き取る
汚れが落ちたら、水だけで濡らして固く絞ったタオルで、洗剤成分が残らないように丁寧に清め拭きします。 - 乾燥
直射日光の当たらない風通しの良い場所で陰干しします。
革の表面(外側)に液が垂れるとシミになることがあるので、内側のケア中も外側にタオルをあてるなどして保護してください。
スエード・起毛素材|専用消しゴムと水拭きのテクニック

スエードやヌバックなどの起毛素材は、水に濡れると色が変わったり毛並みが寝てしまったりするので、さらに注意が必要です。
まず、表面についた完全に乾いた血液汚れであれば、スエード用の消しゴム(汚れ落とし)で優しくこするだけでポロっと取れることがあります。これが最もダメージの少ない方法です。
それでも落ちない場合や、染み込んでいる場合は「水拭き」を行います。
「スエードに水?」と思われるかもしれませんが、「全体を均一に湿らせる」か「極限まで固く絞ったタオルを使う」ことで、シミを防げます。
- 固く絞った濡れタオルを用意します(水が垂れないレベル)。
- 血のついた部分をピンポイントで叩くように汚れを移し取ります。
- 汚れが取れたら、毛並みを整えるようにブラッシングをしてから陰干しします。
どうしても落ちない場合の「革用クリーナー」活用術
上記の方法でもうっすら跡が残ってしまった場合は、革靴用の液状クリーナー(ステインリムーバーなど)を使用します。
これは本来、外側の汚れ落とし用ですが、内側の革(ライニング)にも使用できます。洗浄力が強く、かつ革へのダメージを抑える成分が入っているため安心です。使い古したTシャツなどのハギレに少量とり、優しく拭き取ってください。
【素材別】洗える靴(スニーカー・キャンバス)の血の落とし方
スニーカーや上履き、コンバースなどのキャンバス素材は、水洗いが可能です。丸洗いができる分、つけ置きなどの強力な手段が使えます。
基本の「歯ブラシ+食器用洗剤」洗浄
最も手軽で、リスクの少ない方法です。
注意:色の濃いキャンバス地(赤や紺など)は、強くこすると白っぽく色抜けすることがあります。目立たない場所で試してから行ってください。
- 靴全体を水(ぬるま湯)で濡らします。
- 血のついた部分に食器用洗剤を直接数滴垂らします。
- 使い古した歯ブラシで、優しく小刻みにブラッシングします。
- 泡が赤茶色になってきたら、一度水で流します。これを汚れが消えるまで繰り返します。
- 最後によくすすぎ、脱水して陰干しします。
頑固な汚れには「セスキ炭酸ソーダ」のつけ置きが最強

食器用洗剤で落ちない場合、アルカリ度の高い洗剤を使用します。血液汚れには「セスキ炭酸ソーダ」が非常に効果的です。重曹よりも水に溶けやすく、アルカリ度が高いため、タンパク質分解能力に優れています。
| 道具 | バケツ(または大きめのジップロック)、セスキ炭酸ソーダ |
|---|
- バケツに水またはぬるま湯(30度以下)を入れます。
- 水5〜10リットルに対し、セスキ炭酸ソーダ大さじ1〜2杯を溶かします。
- スニーカーを沈め、1時間〜3時間ほど放置します(浮いてくる場合は重石をする)。
- つけ置き後、残った汚れをブラシで軽くこすり、よくすすぎます。

白いスニーカーなら「酸素系漂白剤(オキシ)」も有効
白のスニーカーや上履きであれば、酸素系漂白剤(オキシクリーン、ワイドハイター粉末タイプなど)が使えます。これらは除菌・消臭効果もあるため、ニオイ対策にもなります。
塩素系漂白剤(ハイターなど)は避けてください。ゴム部分や生地を傷め、黄ばみの原因になることがあります。
使い方はセスキと同様につけ置き洗いですが、酸素系漂白剤は40〜50度のお湯で最も効果を発揮します。しかし、血液汚れの場合は温度が高すぎると固まるリスクがあるため、35〜40度くらいの「人肌より少し温かい」程度のお湯で使用するのがコツです。
時間が経った頑固な血のシミを落とす「裏技」
「いつ付いたかわからない」「洗って乾かしてしまった」というような、酸化して茶色くなった古い血液シミ。これらは通常の洗濯ではなかなか落ちません。
ここでカギになるのが「酵素」の力です。
タンパク質を分解する「大根おろし」のパワー
嘘のような本当の話ですが、大根おろしに含まれる「ジアスターゼ」という消化酵素は、血液のタンパク質を強力に分解します。特にお気に入りの靴で、強い洗剤を使いたくない場合におすすめの天然の染み抜き剤です。
- 大根をおろします(チューブタイプは加熱処理されていて酵素が失活している場合が多いので、生の大根がベスト)。
- ガーゼやキッチンペーパーに大根おろしを包みます(汁だけでもOK)。
- シミの部分に乗せ、トントンと叩いて成分を染み込ませます。
- そのまま1時間ほど放置し、酵素を働かせます。
- その後、水洗いまたは水拭きで仕上げます。
マジックリン(住居用洗剤)を使うリスクと効果
油汚れ用の住居用洗剤(マジックリンなど)は、非常に強力なアルカリ性洗剤です。これも血液汚れによく効きます。
ただし、洗浄力が強すぎて靴の接着剤を弱めたり、手荒れしたりするリスクがあります。生地も傷みやすいため、「捨てようか迷っている靴での最終手段」として考えてください。使用する際は必ずゴム手袋をし、原液ではなく少し水で薄めてからブラシにつけて洗いましょう。
コンタクトレンズ洗浄液(タンパク除去剤)の活用
コンタクトレンズを使用している方なら、手元にある保存液や洗浄液の成分を見てみてください。「タンパク除去」と書かれているものには、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素が含まれています。
これをシミ部分に垂らして少し放置してから洗うと、驚くほどきれいに落ちることがあります。医薬品類なので素材への攻撃性も比較的低く、隠れた名脇役です。
クリーニングに出すべき判断基準と費用相場
自分で頑張っても落ちない場合、あるいは高価な靴で失敗したくない場合は、プロの手を借りるのが正解です。

自宅ケアを諦めるべき「高級靴」「デリケート素材」
以下の靴は、自宅でのシミ抜きリスクが高すぎます。無理せず専門店に相談してください。
- ハイブランドの靴(革の染料が特殊で、水拭きだけで色抜けする可能性がある)
- 淡い色のスエード・ヌバック(一度シミになるとリカバリーが難しい)
- シルクやサテン素材のパーティーシューズ(摩擦に弱く、水ジミができやすい)
- 内側まで総革張りの高級紳士靴
靴専門クリーニングの料金目安と期間
靴専業のクリーニング店や、宅配クリーニングサービスを利用する場合の目安です。
| メニュー | 料金目安 | 期間 |
|---|---|---|
| スニーカー | 500円〜1,500円 | 1週間前後 |
| 革靴・パンプス | 3,000円〜5,000円 | 2週間〜3週間 |
| 特殊染み抜き | +1,000円〜(見積もり) | +1週間 |
「血液汚れ」は特殊な処理が必要な場合があるため、依頼する際は必ず受付で「血のシミを落としたい」と伝えてください。
よくある質問|靴の血液汚れトラブル解決
最後に、靴の血の落とし方についてよく寄せられる疑問とその解決策をまとめました。
血の跡が茶色く残ってしまいました。もう落ちませんか?
茶色いシミは、血液中の鉄分(ヘモグロビン)が酸化して残ったものです。一度洗濯して落ちなかった場合でも、まだ諦める必要はありません。
「セスキ炭酸ソーダ」でのつけ置きや、「酵素入り洗剤(または大根おろし)」での処理を何度か繰り返すことで、徐々に薄くなる可能性があります。
インソールの血を落としたら、そこだけ色落ちしました。
残念ながら、中敷き(インソール)のブランドロゴなどがプリントされている部分は、洗浄によって剥がれたり薄くなったりしやすいです。
新しいインソール(中敷き)を購入し、上から敷いて隠すのが最も手軽できれいな解決策です。
漂白剤を使ったら白いスニーカーが黄ばんでしまいました。
これは「アルカリ焼け」と呼ばれる現象で、洗剤のアルカリ成分が繊維に残り、紫外線と反応して黄色く変色したものです。
リカバリー方法として、「クエン酸水(またはお酢)」につけることが有効です。
オキシドール(消毒液)は血を落とすのに使えますか?
はい、効果があります。オキシドール(過酸化水素水)を血液にかけると、シュワシュワと白く発泡します。これは血液中の酵素(カタラーゼ)と反応して酸素が発生しているためで、この発泡作用で汚れを浮かせることができます。
色の濃い靴やデリケートな素材に使うと色落ちするリスクがあります。必ず目立たない場所でテストしてから使用してください。
靴擦れ防止のために事前にできることはありますか?
靴擦れで血がつかないようにするには、予防が第一です。

「あらかじめ絆創膏や専用パッドをかかとに貼っておく」のが有効です。
サイズが合っていない(大きい)ことも靴擦れの大きな原因なので、インソールでのサイズ調整も検討しましょう。

